運用業務とスクラムは組み合わせにくい、相性が悪いという話をよく耳にします。
しかし、プロダクト開発をするうえで運用業務は切り離せません。
このセッションでは、プロダクトを継続的にユーザーに届けるためには切っても切り離せない運用業務をスクラムでどう扱うとよいのか、ところどころで必要な判断をどう考えて行ったのか、わたしたちの試行錯誤にプロダクトオーナーの視点を交えて紹介します。
また、タイトル内にある問い「運用業務とスクラムは組み合わせにくいのか?」に対するわたしなりの回答である「そんなことはなく、うまく組み合わせることはできる」に至った理由についてもお話します。
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プロダクトにはライフサイクルがあります。これにはいくつかのフェーズがありますが、後半のフェーズになればなるほどいわゆる運用業務が増えていく事が多いです。
このセッション内では下記のような、システム運用・保守業務や業務運用をまとめて運用業務と呼びます。
身に覚えがある業務も多いのではないでしょうか。
- 定期的におこなう証明書更新
- 定期的におこなうソフトウェアのアップデート
- 需要に応じたキャパシティの拡張やライフサイクルへの対応
- 負荷が高くなるイベントへの事前準備と対策
- ユーザーからの問い合わせへの対応
- 突発的に発生する障害やインシデントへの対応とその対策
私は2年間、新旧2つのヤフーを支えるプラットフォームのプロダクトを担当しているチームのプロダクトオーナーをしています。
それぞれのプロダクトは2年間の中でプロダクトとしてのフェーズが変わり、その中でやりたいことや求められていることも変わっていきました。
- 新プロダクトは導入期〜成長期
- まだ足りていない機能もあるのでもっと開発を進めたい
- 多くのユーザーに使ってもらうため、機能要件の拡充を求められる
- 成長期に入ると、これからユーザーが増えていくということで安定稼働も求められる
- 旧プロダクトは成熟期〜衰退期
- 成熟期の間はまだより便利に使ってもらうための機能追加などを行いたい
- ユーザーの課題を解決するために、プロダクトとして開発を行うことも求められる
- プロダクトが衰退期に入っても、まだまだ利用者は多いため安定稼働を求められる
- 同時に、衰退していくプロダクトにはコストを掛けたくないため、コスト削減も求められる
- プロダクトの規模が大きく運用業務や障害も多いため、対策をしたい
新プロダクトでも約4割、旧プロダクトにおいては8割以上が運用業務。決して少なくない(むしろ多い)量の運用業務をおこないながら、それぞれのプロダクトで求められることにも応えていかなければなりません。
このような状況の中で、プロダクトが置かれている状況を見極め、開発チームと一緒に運用業務への取り組み方を検討したり、プロダクトオーナーとして判断をしたりを繰り返してきました。
プロダクトの状況ごとに、その運用業務とどう向き合ってきたのか。
- 運用業務をバックログ内でどのように扱っているのか
- プロダクトオーナーとして運用業務と開発業務のバックログの優先順をどのように決めているか
- スクラムチーム内の運用業務(運用フェーズのプロダクト)と開発業務(開発フェーズのプロダクト)の割合をどのように決めているのか
などの試行錯誤の一部と今後やっていきたいことについて、うまくいったこととそうでないことの両面からお話しようと思います。
また、タイトル内の問いへの私なりの回答についてもお話します。
運用業務とスクラムは組み合わせにくいのか。
試行錯誤を経た私なりの回答は、「そんなことはない。運用業務とスクラムはうまく組み合わせることができるのではないか、むしろその方がメリットがあるのではないか」です。
試行錯誤のなかでは下記のような気づきを得ました。
- ただの運用業務に見えるものも、視点を変えればインクリメントのある開発業務にできる場合がある
- スケジュールありきの運用業務は、無理にバックログで扱わないでスプリントを固定するとうまくいきそう
- 運用業務と開発業務の優先順を判断するためには、単純なインクリメント以外の軸をつくるのがよさそう
- ステークホルダーからのプロダクトに対する期待に応えるためには、運用業務と開発業務の量をある程度コントロールする必要がある
そして同時に、これらは運用業務とスクラムは組み合わせにくい、相性が悪いと言われる要因(課題)を取り除くヒントにもなっているのではないかということに気がつきました。課題を解決できるならうまく組み合わせられるだろうし、スクラムのメリットもより活かすことができそう、と思い回答に至りました。
そんなに単純ではないかもしれないですし、課題がすべて解決したわけでもないですが、運用業務とはまだまだこれからも長く付き合っていかないといけないので、よりよくしていくための挑戦はこれからも続きます。
同じ課題を持った人にとって、なにかの参考になったり、自分たちもチャレンジしてみようと思ってもらえたら嬉しいです。