始まりはとある日の居酒屋で…
2月某日、都内の居酒屋にて、前職のスクラムチームの恩師である3名の方との飲み会が開催されました。皆お酒も入り、スクラム談義に花が咲きます。そんな中、私の現在の職場についての話題になり、「今建設業界でシステム開発してるんですよ~」「建築の工程って意外とシステム開発と似ていて面白いんですよね~」「でも現場の方たちは今でもFAX使ってたり、スマホも持っていなかったり、びっくりするくらいIT化のハードル高いみたいなんですよね~、スクラム的に、逆にやりがい感じません?笑」など、建設業界でのシステム開発の話題へとシフトしてきました。これらの話を聞いた、尊敬するアジャイルコーチであるYさんが一言、
「それ、スクフェスで発表してみたら面白いんじゃない?」
他のお二方も「それ、いいじゃん!」「絶対面白いよ~!」と続きます。そこで即座にスクフェスの日程を調べ始める私。
「この間の東京、もっと早く知っておけば良かった~。3月に福岡がありますけど、ちょっとスケジュールタイトすぎますね。あ、5月に新潟ありますよ!これに出ましょう!(即決)」
翌日、会社の上司にスクフェスに出て発表したい旨を相談。すぐに「いいよ!」の返事を貰う私。こうして、私のスクフェスでの挑戦が始まりました。
「これってもしかして、スクラムで建設業界もアップデートできるのでは…??」
皆さまも薄々気づいているかもしれませんが、建設業界はIT化で大きく出遅れています。その背景には、以下のような問題があると考えられます。
- 高齢化と人手不足
建設業界は、3K(きつい・汚い・危険)というイメージが強い業界です。そのため、若手が入ってもすぐに辞めてしまったり、そもそも若手が建設業界を最初から選ばなかったりしてしまい、慢性的に若い働き手が不足しています。また、このために他の業界と比較しても特に高齢化が進んでおり、将来的に熟練した職人の供給が、需要に急速に追い付かなくなると言われています。
- 工程間の断絶
建物を建てる時、以下のような工程を経て建設が進んでいきます。
企画 ⇒ 設計 ⇒ 部材の発注 ⇒ 部材の現場への納入 ⇒ 施工 ⇒ 竣工 ⇒ 維持管理
この工程の中で、企画を担当するのはゼネコンや工務店、設計は設計会社、施工を管理するのはゼネコンから下請けをした建設会社、実際の施工を担当するのは建設会社から下請けをした専門工事店(大工さん、ペンキ屋さん、ガラス屋さん、左官屋さんなどなど…)といったように、各工程ごとに別の会社が担当することが一般的です。工程の流れはシステム開発によく似ていますが、各工程の担当会社が違うぶん、コミュニケーションの齟齬やリードタイムが非常に多く発生しています。
- 超アナログ
上記の工程で、企画・設計のような上流工程はCADやBIMの活用等で他工程よりも少しだけIT化が進んでいますが、中流・下流の工程では未だにびっくりするくらい超アナログなやり取りが行われています。例えば、弊社へ各工事店さんが部材を発注するとき、一番多い発注手法は「電話」です。そして、その次に多いのは「FAX」です。職場の高齢化によりIT化のハードルが上がってしまっていたり、末端の専門工事店は極小規模な会社であることが多いために導入コストがネックになっていたりと、この問題は他の問題も絡んでいるかもしれません。
- 下流工程で嵩む変更コスト
現場の職人さんたちは、設計書を元に家を建てていくわけですが、実は設計書に不備があり、その場で何とかしなければならない場面が多々あるようです。(例えば、天井裏の配管のことを考えずに梁を設計したため、配管が梁に干渉してしまっていたり…)こういった事が起こった際、解決しなければならないのは現場の職人さんの仕事になります。こういったことが頻繁に起これば起こるほど、現場の職人さんが解決策を考え、その場で部材を加工し、施工し直すという手間と技術が必要になってしまいます。あれ、これってシステム開発でも見た事あるようn……
こういった問題を知り、私は思いました。
「建設の工程ってWFに似てるとこあるよなぁ。上流の不備のしわ寄せが現場の職人に現れるのも似てるし。…あれ?って事は、もしかしてスクラムの価値観ががシステム開発の現場を変えたように、スクラムを使って建設業界もアップデートできるのでは??」
そこで私は野原ホールディングスに入社し、スクラムを通して業界の課題解決に取り組んでいこうと決意したのです。
スクラムの価値観で建設業界のアップデートへ…
私は野原ホールディングスへは昨年10月に入社したばかりで、入社から現在まで、WFしか経験したことのない他のメンバー達に向けての勉強会の開催したり、社内向けシステム開発のプロジェクトでスクラムの手法を試したりして、社内の理解を促進する取り組みを実施しています。そして今年の5月頃から、本格的にスクラムでの社外向けシステムの新規開発プロジェクトをスタートさせる予定です。今回の発表では、建設業界の抱える問題点と、それらをスクラムの価値観をどう用いて解決しようと考えているか、これから具体的にどのような取り組みをしていこうと考えているか、などを中心にお話できればと考えています。
まだまだ道半ばではありますが、組織に初めてスクラムを導入しようと取り組むアジャイルリーダーの方々や、建設業界をはじめとする業界全体のIT化、ひいてはDXに興味のある方のご参考になればと思います。
【Tips】そもそも、「野原ホールディングス株式会社」って何の会社?
現在私の所属する「野原ホールディングス株式会社」は、慶長三年創業の建材商社です。主力商材は内装建材で、特に壁材(石膏ボードなど、建物の壁の中に使われている部材)をメインに取り扱っています。自社での生産ラインは保持しておらず、全ての商材をメーカーより仕入れ、それを工事店へ販売しています。そんな商社がなぜエンジニアを雇っているのか?きっかけは、社長の交代でした。
現在の社長である野原弘輔氏が、父の後を継いで社長に就任したのは2018年。IT化が大きく出遅れている建設業界にもIT化の波が徐々に起こってきている現状を分析し、「このまま建材の卸しだけをしていたら、時代に取り残されて会社が無くなってしまう」と感じていた弘輔氏は、社長就任をきっかけに会社を「建設業界のIT化・変革を促進する」会社に造り変え始めます。そして、「建設業界を根本からアップデート」するという方針のもと構想されたのが、3D図面に時間(工程管理)や価格といった付加情報を付与した「BIM」というデータを情報基盤として、プロジェクトの全行程でBIMを活用することで効率化を図るという「BuildApp」です。こうして現在、開発者人材を大幅に増員し、システムの一部機能の開発を終え、ゼネコン各社との実証実験を経てカイゼンを重ねると共に、開発未着手部分についても随時要件の洗い出しや開発を行っています。