パタン・ランゲージって知ってるよね?
ソフトウェア開発に多くの影響を与えているクリストファー・アレグザンダーと彼が生み出した「パタン・ランゲージ」
ソフトウェアシステムの設計でデザインパターン、アーキテクチャパターンを使うことは当たり前になり、組織や変革のパターン集である「組織パターン」や『Fearless Change(フィアレスチェンジ)』も出版されました。
スクラム自体は元々はパタン・ランゲージとしてまとめられて発表されたものであり、昨年出版された『A Scrum Book: The Spirit of the Game』はパタン・ランゲージの形式で記述されているだけでなくScrum PLoPというパターンコミュニティのアウトプットです。
スクラムとパタン・ランゲージは実は切っても切りはなせない関係にあります。
パタン・ランゲージの目的は何だったけ?
皆さんは「ああ、パターンランゲージ。暗黙知を形式知にするやり方だよね」「コツのカタログ集だよね」という理解をしているかもしれません。しかし上記の理解はパタン・ランゲージや、アレグザンダーが追い求めてきた内容を半分も表現できていません。
本来アレグザンダーが探求していたのは「名付け得ぬ質」「美」をもつ町や建物、住まいをどう生み出すかでした。その過程において、彼はそのような「質」を持つ伝統的な建築や町に共通する形を「A Pattern Language」としてまとめました。しかし、本来彼が追求していた事は「どのようにして伝統的なまちや建築物が持つ質を現代に生み出すか」でした。
単にパタン・ランゲージを使うだけではダメだよね
では「パタン・ランゲージ」としてまとめられたコツを必要に応じて使えばそのような質が生まれるのか、というと実はそうではありません。このことはアレグザンダー自身も認めています。
そこに足りていなかったものは「質を生み出すプロセス」「質の判断基準」「システムを生成するためのシステム」が必要というのがアレグザンダーの言わんとする所です。
ソフトウェア開発(XP)とパタン・ランゲージの関係性については、江渡浩一郎さんの『パターン、Wiki、XP』にて既に明らかにされています。『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』や『The Battle for the Life and Beauty of the Earth(未翻訳)』についての解説は長坂一郎さんの『クリストファー・アレグザンダーの思考の軌跡』に詳しいですが、そこからのソフトウェア開発へのフィードバックについてはまだ足りてるようには思えません。(どこかでやっていたら教えて!)
『A Scrum Book』においてもFundamental Processとしてネイチャーオブオーダーのプロセスについての言及がありますが、このプロセスについて深く議論はされてはいません。
なぜ再びアレグザンダー理論を取り上げるの?
私はかつて(2010年)「アレグザンダー祭り」というイベントを企画開催し、日本では一度火が消えかけたパタンランゲージを始めとするアレグザンダーの仕事に対して光を当てようと試みました。その時のモチベーションはまさに上記に述べた通り「アレグザンダーが追い求めていたものは何か?アジャイル・スクラムを実践する我々が学ぶべきものは何だろうか?」という問いかけでした。(詳細は『アレグザンダー勉強会にむけて「私とパターン、そしてアレグザンダー」(1st Decade)』参照)
時が経ち、2020年現在スクラムやアジャイルが普通になりつつある世界になりました。アレグザンダーが追い求めた世界観や生み出した概念ついて個人的な体験を元にした解釈を仮説として提示したいと思います。
この講演をきっかけに再びアレグザンダーの各種仕事についての興味関心を持つ人が増えること、再度コミュニティの議論や探求のきっかけになること、実際の現場においてクオリティが生成される助けになることを願います。